〔英オックスフォード〕コロンビア大学(ニューヨーク)放射線研究センター放射線腫瘍学のDavid J. Brenner博士らは「若年層と比べた中年層の放射線被ばくによるがんリスクは,これまで考えられてきたほど低くない」との研究結果をJournal of the National Cancer Institute(2010; 102: 1628-1636)に発表した。
原爆被爆者のデータを再分析
小児では成人に比べて放射線に対する感受性が高く,被ばくによる発がんリスクも高い。一般に被ばく時の年齢が高いほど,放射線誘発がんリスクは低いとのデータもある。
一方,日本の原爆被ばく生存者を対象とした長期研究の結果から,被ばく時の年齢が30歳前後からそれ以降になると放射線誘発がんリスクは低下しなくなることが分かっている。
Brenner博士らは,放射線被ばくによるがんリスクと被ばく時の年齢との関係を明らかにするため,放射線の被ばくから発がんに至るには2つのプロセスがあるという想定で,日本の原爆被ばく生存者のデータを再分析した。
第1のプロセスは,正常な幹細胞を前がん細胞に転換する遺伝子変異が起こるイニシエーションプロセスで,第2のプロセスは体内に既存する前がん細胞を増幅させるプロモーションプロセスである。
同博士らによると,小児ではイニシエーションプロセスの影響が優位で,既に前がん細胞を多く有する中年期の成人ではプロモーションプロセスの影響が優位と考えられる。
同博士らは,こうした生物学的な作用に基づくモデルを開発し,日本の原爆被ばく生存者のデータに応用した。その結果,このモデルによって同生存者における被ばく時の年齢に関連したがんリスクのパターンが再現できた。
また,米国人のデータを用いて同モデルでのがんリスクを予測したところ,30~60歳の年齢層で予測がんリスクとデータとの一致が確認された。
低線量被爆の重要性を示唆
Brenner博士らは「中年期以降の放射線被ばくによるがんリスクが従来の考え方とは異なり,いくつかの腫瘍については増加する可能性がある」と指 摘。また,「今回の研究結果は,中年期の成人を対象に普及しているX線診断や,同じく中年期の成人が多く従事する放射線を取り扱う職業に関して,重要な情報を提示している」と述べている。
同博士らは「疫学的エビデンスによると,成人における被ばくに関しては,一般に被ばく時の年齢が高くなるに伴い放射線リスクが低下することはない。ま た,被ばくから発がんに至るまでの2つのプロセスは,今回の結果が生物学的に妥当であることを裏付けている」と説明している。
国際疫学研究所(米メリーランド州ロックビル)とバンダービルト大学(米テネシー州ナッシュビル)のJohn D. Boice博士は,同誌の付随論評(2010; 102: 1606-1609)で「日本人のデータを一般化して米国人に適用するのは妥当ではない。そのようなデータは不確実で,今回の研究結果と矛盾するデータや モデルが存在する」と指摘している。
しかし,同博士は「この生物学モデルによって興味深い仮説が立てられ,それらの結論が,われわれの社会における低線量放射線被ばくが今後も重要であることを再確認させてくれる」と述べている。
*****************************************************************************
日本でも被爆する検査によってガンが4%増加するという報告がありましたが、日本のガン患者の1~2%は不必要なCTや透視で起きている可能性があります。(もちろん必要な検査は受けなければいけませんが。)
被爆量の多いCTや透視下の検査は最低限にするべきでしょう。
消化管以外はMRIの方が情報量が上回っているし、消化管ではエコーで代用できるものもあります。
小児科領域で言えば、意識やバイタルがしっかりしている頭部外傷はMRIの方が好ましく 、
副鼻腔炎はWaters法で十分だし、上手な医師や技師はエコーで副鼻腔炎の診断ができます。(筆者はエコーによる副鼻腔炎の診断はできません。) また、臨床症状だけで判断しても十分です。
腸重積もエコーで十分です。腹部CTを撮るぐらいなら、試しに透視下で高圧浣腸した方が二重に被爆せずに済みます。
虫垂炎はエコーでは判断が難しいことが多く、明らかな例以外はCTは撮った方が良いでしょう。
****************************************************************************
上記の記載は2011年2月17日に行いましたが、3月11日の東日本大震災以降に起きた福島原発の事故によって、放射性物質が放出されたことに伴い、下記の記載を4月17日に増補しました。
≪福島原発事故の影響について≫
まず大きく分けて、
A.内部被爆
1.ヨウ素(I-131)
2.セシウム(Cs-137、Cs-134)
3.ストロンチウム(Sr-90)
4.プルトニウム(Pu-238、Pu-239)
B.外部被爆
に分けて考える必要があります。
東京に住んでいる場合、A-4 と B は関係ありません。
外部被爆では核種は関係ありません。αかβかγ崩壊かという3種類の違いだけが問題になります。
プルトニウム自体に強い化学毒性があり、またα崩壊するため人体への毒性はとても強いのですが、チェルノブイリですらプルトニウムの飛散は30km以内でした。福島県に住む人以外関係ありません。
また勘違いが多いのですが、半減期が長い方が問題ではなく、短い方が1秒当たりに出す放射線の量が多くなるため問題です。
ウランは世界中の岩石中に微量ながら含まれているが、人体への影響が問題にならないのは半減期が非常に長いからです。
しかし濃縮すると臨界に達し、自然界に含まれるウランより速く分裂して多くの放射線を出します。
キュリー夫人が死んだのも、マンハッ� ��ン計画に参加したフォンノイマンやファインマンが死んだのもおそらく外部被爆が大きかったためと思われます。
臨界点に達した放射線源に近い場所で仕事をしている人だけが外部被爆の影響を受けます。
東京に飛来する放射性物質は、I-131>>Cs-137≒Cs-134>Sr-90の順に多いです。(時間が経つと半減期の違いから、Cs-137>Cs-134となります。)
これらはα線を出しません。β線とγ線が人体のDNAを傷付けることで、ガン細胞に変わったり、もっと損傷が酷ければ細胞分裂することすらできなくなって、急性放射性障害を引き起こします。
この3種の核種は人体での分布が違います。
A-1. I-131は甲状腺に集積するため、β線による障害も甲状腺組織に集中する。
A-2. Cs-137、Cs-134はKと同様に分布するため主な集積臓器は筋肉である。
A-3. Sr-90はCaと同様に分布するため主な集積臓器は骨である。
これらのデータ集積は難しく、
Data-1. 広島と長崎の生存者の発ガンリスク上昇
Data-2. アメリカやソ連での地上核実験が行われた1940年代以降の疫学調査
Data-3. チェルノブイリ周辺住民の発ガンリスク上昇
Data-4. 動物実験
ぐらいしか参照するものがありません。
外部被爆で、白血病と白内障が最初に増えます。(Data-1.)
内部被爆で、甲状腺癌が最初に増えます。(Data-3.)
≪広島と長崎の被爆生存者の発ガンリスク≫
図1 原爆被爆者における白血病の過剰絶対リスクと線量の関係
1950年時点での広島と長崎の原爆生存者集団8万6572人を追跡調査。白血病は被爆後最も早く発生した腫瘍。白血病死亡頻度(過剰絶対リスク)は、約2.5Svまでは線量が大きいほど増加する傾向にあるが、0.05~0.1Svの低線量域ではゼロ以下。
(出典:Radiat Res 1996;146:1-27.)
やまもと なおゆき氏 (○放射線科医。愛媛県緊急被ばく医療アドバイザー。2011年3月まで、同県「初期被ばく医療機関」に指定されている市立八幡浜総合病院(愛媛県八幡浜市)副院長。)
が日経メディカル4月号に書いた記事から抜粋します。
***************************************************
これまで日本の原爆被災者の追跡調査(図1)や、諸外国での事故などの被害者調査が綿密に行われており、100ミリシーベルト(mSv)未満の被曝で悪 性腫瘍の発生が増えることは認められていない。100mSv以上であればリスクが数%高くなるといえるが、その上昇はわずかであり、喫煙や化学物質などの影響よりも低いといわれている。
(注釈:1人が年間に受ける自然被曝量は世界の平均は約2.4mSv、日本の平均は1.4~1.6mSvである。ブラジルやボリビアの一部地域では放射性物質を含む岩石が多く、足下から10mSv/yr以上の被爆する。
許容できる放射線量に対しWHOは放射能の量は変動するので、なかなか断定が難しいとしながらも
「1年間の量にして10ミリシーベルトだと外出を避ける。50ミリシーベルトだとそこから避難すべき量。広島、長崎では500ミリシーベルトの放射線量を受けた人の3割がガンで死亡している」
と語った。)
胎児の奇形発生は100mSv、男性の一時的不妊は精巣に150mSv、リンパ球減少は500mSvで生じる可能性がある。
(以下、略)
***************************************************
以上から外部被爆は100mSv/yrを上限とした方が良さそうである。
福島で働く人の上限を一時的に100mSv/yr→250mSvに引き上げたが、個人的には挙児希望のある従業員は100mSv/yrとした方が良いと思う。
上記のように、地上核実験が盛んだった頃の低線量被爆が、現在のアメリカ人中高年層の発ガンリスクの高さを説明できる可能性が指摘されています。
≪チェルノブイリ周辺における内部被爆≫
・チェルノブイリ周辺では追跡できている数十万人の中で6000人以上の小児甲状腺癌が発生した。
・その多くは、16歳以下であった。
・高濃度汚染地域では、それ以前の甲状腺癌発生率の約100倍であった。(本来は甲状腺癌は小児人口10万人に1人以下の発生率。)
・成人になると発ガンリスクは1/8に低下。特に40歳以上は殆ど甲状腺癌を発症していない。
・原因はI-131であり、牧草+土壌→牛乳、山羊乳、羊乳という経路で濃縮された。
・Cs-134やCs-137由来の発ガンは報告されていない。
・チェルノブイリ周辺で避難した人達の平均被爆量は50mSvであった。
・甲状腺癌は被爆5~10年後に発症している。
・2011年現在も半径30km以内は立ち入り禁止となっているが、100~200km離れたHot spotと呼ばれる高濃度汚染域がある。
(ソースはチェルノブイリ周辺の甲状腺癌患者に対し、5年以上に渡り、手術や治療を行った元信州大助教授・菅谷昭先生・現松本市長の発言です。)
≪I-131による発ガンリスク≫
CDCのサイトを訳しました。
<小児のI-131に対するリスク>
同量のI-131を摂取した場合、成人に対して、
・新生児は16倍被爆する。
・1歳未満の乳児は8倍被爆する。
・5歳児は4倍被爆する。
(CDCのサイトを読むと、甲状腺の重さで被爆量を比較するという単純な評価でしかありません。 新生児の甲状腺重量は1g、月齢6で2g、5歳児で4~5g、成人で15~20gであることを言い換えただけです。体重比でわずか1/3000程度の小さな臓器にI-131が集積するのです。年齢やヨウ素の過不足によって甲状腺への取り込み率は違いますが、人では摂取量の20~30%が甲状腺に吸収され、残りは腎排泄されます。大雑把に言って、内部被爆は外部被爆の1000倍危険だと言えます。)
<妊婦、授乳婦I-131に対するリスク>
・妊婦はヨウ素の取り込みが亢進している。特に、1st trimesterは顕著である。
・ヨウ素は胎盤を通過する。
・2nd trimester以降は胎児の甲状腺へのヨウ素の取り込みが亢進し、蓄積される。
・産後1週間は母体の甲状腺へのヨウ素取り込みは4倍まで亢進。
・母親に取り込まれたヨウ素の1/4が母乳に分泌され、乳児に移行する。
・20歳になる頃までリスクは続くが、年齢と共にリスクは減っていく。
<ミルクに含まれるI-131に対するリスク>
・農村部では新鮮な牛乳がよく飲まれている。
都市部では消費されるまでに時間が経つので、リスクは減っていく。
・ヨウ素が不足している地域ではリスクが上昇する。
・山羊や羊の乳は、牛乳の10倍、ヨウ素が濃縮される。
(哺乳類の血清から母乳への濃縮は、種によって差があるようです。)
ということでした。
このCDCのサイトでは若年で代謝が亢進していることは考慮されていない数字が表記されています。
また同時に、代謝の活発さを考慮する必要があることも、CDCのサイトに書かれています。
15歳と40歳では体重や甲状腺の重さは殆ど有意差はないかも知れないけれど、
発ガン率は大きく違います。
筆者の個人的見解ですが代謝の違いに対して最低でも2倍の係数を乗じて、外部被爆の安全上限の2000倍以上厳しく考えた方が良いと思います。(未成年の平均甲状腺サイズが成人の1/4と仮定して、実際は8倍違ったのだから最低2倍の係数が必要です。)
100mSv/yr×1/2000=0.1mSv/yr=4500Bq of I-131/yr=8.3Bq/L of I-131 × 1.5L/day × 365days 以下を新生児の基準としても良いのではないかと思っています。
つまり日本で言われている飲料水は100Bq/L以下ではなく、WHOが主張している10Bq/L以下の方が安全域として好ましいと考えます。
EPAは0.1Bq/Lとかなり厳しい条件ですが、FDAは逆に日本と同程度の170Bq/Lとなっています。
<I-131>
U.S. Environmental Protection Agency 4 mrem/yr = 3 pCi/L = 0.1 Bq/L continuous exposure in drinking water
FDA 170 Bq/kg (4,600 pCi/kg) in food , infant water and drinking water
National Council on Radiation Protection and Measurement (NCRP), and International Commission on Radiological Protection (ICRP)
Annual occupational exposure limits: 50 mSv (5 rem) for whole body dose 500 mSv (50 rem) for thyroid dose
≪WHOの飲料水のガイドライン≫
*****************************************************************************
Radiation Exposure from Iodine 131
Who is at Risk
* Incidence of thyroid cancer depends on many factors, including
thyroid dose and age at the time of exposure.
During 1945-1962, when they were young children (and more vulnerable
than adults to radiation exposure), many persons in the United States
were exposed to radiation fallout from I-131 from multiple sources.
Those exposures put those persons at risk for thyroid and parathyroid
disease and cancer of the thyroid.